そして明かりがついた。
エドワードの傍らでは、ロイ･マスタングが何事もなかったかのような顔で見下ろしている。
「どうした、鋼の？」
エドワードはその澄ました顔をしばらく睨みつけた後、黙ってそっぽを向いた。
「あのさ、兄さん。今日のパーティで……」
宿へと向かう車の中で、おずおずとアルフォンスが切り出す。エドワードはずっと窓の外を見ている。
「何かあった？」
「……ないよ」
一瞬の間をおいて、エドワードは車窓のほうを向いたまま答えた。
「そう、ええと、あのさ、ボク……ごめん、なんでもない」
言いよどんだアルフォンスも黙ってしまう。
車中に沈黙が流れた。
窓の外の景色をぼんやりと眺めながら、エドワードは左手を唇に当てる。
明かりがついたときにあの男があまりに平然としていたから、すべてはパーティの座興に過ぎないのかもしれないと、悔しくなったけれど……。
「鋼の」
帰り際にあの男に呼び止められた。顔を見ずに帰ろうと思っていたのに。
気づかぬふりをしようかどうか迷ってから振り返った。いつもの皮肉な笑顔を予想していたのに、なんだか様子が変だった。笑っているはずなのに、どうして不安そうに見えるんだろう？
「次の機会を待っているよ」
頬に血が上った。
「……気が向いたらな」
目を合わせないで答えるのが精一杯で。
「新年おめでとうございます、大佐」
アルフォンスが挨拶をしている。
「新年おめでとう」
「ほら、兄さんもちゃんと挨拶して」
「……新年……おめでとう……」
アルフォンスに促されて、しかたなく顔を上げた。
――大佐があんな風に優しく笑えるなんて……知らなかった。
ふと我に返ったエドワードは、アルフォンスに新年の挨拶をしていないことに気づいた。
「ああ、言い忘れてた、新年おめでとう、アル」
「新年おめでとう、兄さん。今年こそ、元の身体に戻ろうね」
アルフォンスも挨拶を返す。
「そうだな」
エドワードは弟に微笑みかけた。
背景素材は篝火幻燈からお借りしました。