ようやくエドワード・エルリックの虫除けの任から解放されたハボックは、「ターゲット」を捜して急いでいた。
――事務官のマリーちゃんはどこいった？ ステファニーさんは？
今年はあの「紳士協定」のおかげで、マスタング大佐が女性を独占することはないはずだ。だとしたら自分にもチャンスはある。
たしかに例年と違い、女性たちは大佐の周りに集まっているわけではないようだ。マスタングの「ターゲット」の噂は女性の間にも広まっているのかもしれない。
だが、ハボックがさきほど目をつけていた女性には、すでに男たちが群がっている。
――これじゃ近づけないじゃないか。
広間を見回したハボックは、奇跡的にぽつんと一人佇む女性を発見した。
「あ、ホークアイ中尉？」
よく見るとホークアイはひとりではなかった。男たちが遠巻きにしている。軍部でも一、二を争う美貌のホークアイにあこがれるものは多かったが、その才色兼備さゆえに、あえてアプローチをかける勇気のある人間がいないというのも事実なのだ。
それを知ってか知らずか、ホークアイはいつも通りのクールな表情でウィスキーグラスを口に運んでいる。
「あー、俺もパス。そんな度胸ない」
ハボックが別の女性をみつけようと方向をかえたとたん、明かりが消えた。
「しまった！」
ホークアイに気をとられている間にカウントダウンが終わったのだ。危険防止にテーブルや柱に塗られた夜光塗料の光以外は真っ暗で何も見えない。
――こうなったら誰でもいいから女の子を捕まえるんだ。でなきゃあれだけ苦労した甲斐がない。
半ばヤケクソである。
手探りで進み誰かとぶつかったら、触感で女性かどうか確認する。身長や腕の筋肉のつき方で性別はなんとなく分かる。腕を掴み合い、お互いのゴツさに気づいて振りほどくというようなことを何度か繰り返したとき――。
ハボックの肘のあたりにだれかの肩がぶつかった。
――小柄だ。
女性にちがいないと思ったが、過去の苦い経験を踏まえ、念のためあごのあたりをさりげなく触る。
――つるつるだ。女性だ。
意を決して、その女性の肩をつかむ。
「ひぃっ」
か細い悲鳴があがって、息を呑む気配が伝わる。
――怯えさせてはマズい。ええと、お嬢さん怪しいものではありません。って十分にあやしい、いやまずは自己紹介から……いやそんな悠長なことをしているヒマは……さっさとやってしまって……いやそれで嫌われたら元も子も……ここはひとつ決め台詞で……。
頭の中は真っ白だ。
ともかく何かいわなければとハボックが顔を近づけると、相手が泣きそうな声で叫んだ。
「や、やめてください〜、僕は、お、男です〜、フュリーですぅ〜フュリー曹長ですぅ〜」
「げっ！！」
ハボックは飛びのいた。
「ひ、ひどいです。これで三人目ですよ。なんで僕を女の子と間違えるんだー」
「男のくせにお肌つるつるだからだっ！！」
ハボックが怒鳴った瞬間。
明かりがついた。
広間のあちこちで叫びともうめきともつかぬ声があがっていた。
背景素材は篝火幻燈からお借りしました。