周囲が暗闇になると同時に、エドワードは右手を掴まれ引き寄せられた。
「や……放せっ」
振り払おうとした左手も抱え込まれてしまう。
「鋼の……ヤドリギの下でのキスは拒んではいけないというのを聞いていなかったのか？」
耳元でロイ･マスタングの低い声がささやいた。
「でも……」
抗議しようとするが言葉が出ない。代わりに身体を強ばらせた。すると、暗闇から苦笑とも溜息ともつかない気配が伝わってきて、拘束がゆるんだ。
前髪がそっとかき上げられ、額に湿った暖かく柔らかいものが押しつけられる。
「君はまだ子供だから、今はこれで勘弁してあげよう」
頬が熱くなった。
「馬鹿っ、子供扱いすんなっ」
叫んだつもりだったが、喉に何かがからんだようにかすれ声しか出なかった。
「そうか子供扱いは不満か」
今度ははっきりと、楽しげな気配が伝わってくる。笑っているようだ。
「それでは遠慮なく大人扱いすることにしよう」
もう一度抱きすくめられて――。
開きかけた口が唇でふさがれた。
永遠に続くかに思われた深い口づけから解放されて、エドワードはため息をつく。
膝に力が入らなくて、相手の服にすがりついた。男の腕が身体をささえてくれる。
「大丈夫か、エドワード。ひとりで立っていられるかい？」
からかうような調子に急に意識がはっきりして、慌てて姿勢を正す。
「残念だが時間だ。続きは次の機会に」
ささやきとともに抱擁が解かれた。
「新年おめでとう。良い年であるように」
耳の下にキスひとつ。
髪を撫でられ、頬を撫でられ……。
最後に唇に触れていた指がそっと離れる。
そして明かりがついた。
背景素材は篝火幻燈からお借りしました。