リザは闖入者の存在にそれまで気づかなかった自分に歯がみをした。ウィンリィのことで頭がいっぱいだったからだ。こんな場所に彼女を連れてきてしまったことを後悔する。
ウィンリィの姿をかばうようにしながら、バッグの中の拳銃に手をかけて、リザはゆっくりと振り返る。
そこにいたのは――。
「マスタング大佐！？」
「中尉！？」
ロイ・マスタングの傍らに寄り添う小柄な姿があった。陰になって顔は見えない。彼のことだから、いつものように女性を連れ歩いているのだろう。
動揺が声にでないようにと願いながらリザはいった。
「プライベートですので、できればこのまま立ち去っていただけると嬉しいのですが」
「そうすることにしよう」
マスタングが背を向けようとしたとき、彼の陰にいた人物の姿が現れた。
リザの後ろにいたウィンリィが息をのんだ。
「エド！？」
その声に相手もまた声を上げる。
「ウィンリィ？」
エドワード・エルリックが驚いた顔でこちらを見つめていた。
自分にしがみついているウィンリィの手が急に震えだしたのを感じて、リザはここを立ち去るべきだと判断した。
「それでは失礼します」
つとめて冷静に事務的に聞こえるように告げ、ウィンリィの背を押して歩き出す。しばらく歩いて、まだ震えている少女の肩を抱いて
「大丈夫？」
と、尋ねた。
「どうしてエドが……なんで……」
さっきからウィンリィは繰り返しつぶやいている。
ショックを受けているのは、エドワードに自分と一緒のところを見られたせいなのか、それともエドワードとマスタングが一緒にいるところを見たせいなのか、どちらだろうとリザは思った。
「ウィンリィちゃん、あなた本当はエドワード君が好きだったの？」
リザの質問にウィンリィはかぶりを振る。
「そうじゃなくて……。エドに見られちゃった。どうしよう……」
ああ、そういう心配をしているのかと思う。このぶんでは、マスタングがエドワードを伴って現れた意味も分かってはいないだろう。
「大丈夫。大佐もエドワード君も誰にも言ったりしないわ」
彼らだって自分たちと立場は同じなのだから。
背景素材は月楼迷宮からお借りしました。