親愛なるアンナ
前にエドワード・エルリックは厭な奴だとかいう手紙を送ったけれど、前言撤回。ちゃんと話してみたら、そんなに厭な奴でもなかった。うちとけないのは、慣れない環境で緊張していたせいなのかもしれない。
こういうことを書くと、きっとおまえは「兄さんったらすぐに態度が変わるんだから」と笑うんだろうな。まあ、いいさ。
僕がエドワード・エルリックを見直した、事の顛末を書こう。
その日は研究室の休日で、僕は生活必需品や本を買うために街へ出かけた。他の人たちからは飲みにいこうと誘われたけど、酒はあんまり好きじゃないんで、ひとりで夕食をとることにした。それで食堂に入ったら、そこにエドワード・エルリックがいた。
いつものようにひとりだった。
どうしようか迷ったんだけど、店を出て行くのは変だし、かといって声をかけるのもためらわれるので、結局彼の後ろの少し離れたところに席をとった。幸い時間が早くて店は空いていたしね。エルリックは僕には気がついていないようだった。
僕が運ばれてきた料理を食べはじめたころ、店に柄の悪い男たちが入ってきた。ずいぶんと酔っているみたいで、そいつらはエルリックに絡みはじめた。どうやら連中は彼を女の子だと思ったらしい。店の人間は見てみぬふりをしていた。
はじめのうちはエルリックも無視していたんだけど、だんだん我慢できなくなったんだろう、男のひとりが何かいったとたん、彼の左手が閃いて（ほんとうにそんな感じ）、そいつは床に伸びていた。
残った男たち（3人いた）は一瞬呆然としていたけれど、すぐに気を取り直してエルリックに殴りかかっていった。
で、僕がどうしたかというと――怒るなよ、アンナ――、エルリックに加勢した。喧嘩はしないと約束したけど、仕方ないじゃないか、彼には右手が使えないというハンデがあるし、3対1なんてフェアじゃない。もっとも僕がやったのは男たちを押さえることだけで、連中を戦闘不能にしたのはエルリックだけど。
エルリックは、男たちをあっという間にのしてしまうと（結構楽しそうだった）、警察がきて厄介なことにならないうちにと、僕を連れてさっさと店を出てしまった。見かけによらず、そういうトラブルには慣れているらしい。
興奮していたせいか、店を出てからの彼は饒舌だった。僕を巻き込んだことを謝ってくれた。僕が勝手に加勢したんだけどさ。
その後ふたりで別の店にいって話をした。少しだけど、彼のことが分かった。
エドワード・エルリックには弟がいて、偶然にも名前は僕と同じで「アル」というらしい。顔も僕に似ているらしい。彼の弟が今どうしているのかは知らないけど、エルリックの態度から想像すると、生き別れたか亡くなったかしたんじゃないかと思う。
初対面のときの妙な態度もそれで説明がつく。
別に嫌われていたわけじゃないとわかって、ほっとした。
それから、もうひとつ。
エドワード・エルリックは背が低いのを気にしている――らしい。喧嘩になったのも、「かわいい」だか「小さい」だかといわれたのが直接の原因だったようだ。女の子だと思われていたんだから、それって褒め言葉じゃないのかという気がしないでもないんだけど。
ちなみに彼の背は僕より頭ひとつ分低い。おまえとそう変わらないかもしれないね。
頭がよくて、顔もよくて、ついでに喧嘩も強い彼のような人間でも弱みがあると知って、ちょっと愉快だ。
彼ともっと親しくなれたらいいと思う。
アルフォンス・ハイデリヒ