アルフォンス・ハイデリヒの手紙 3

　手紙をありがとう。
　でも最初にいっておく。
「兄さんはエルリックさんにひと目惚れされたのよ」だの「妙な態度は意識してる証拠よ」だのといった、気色悪いことは二度と書かないでくれ。エドワード・エルリックは男性なんだから。

　相変わらず彼とはぎくしゃくした関係が続いている。
　不幸なことに僕らは研究チームとして組まされることになった。まあ、研究に関してはもったいぶったりせずに、丁寧に解説してくれるから、別段問題はないんだけどね。
　でも、無駄話をせず、黙々と仕事だけをするというのは、結構辛いものがある。出会いがあんなだったから、何を話していいのかも分からないし。

　エドワード・エルリックは、僕だけでなく他の研究員ともあまり打ち解けていないようだ。いつも一人で食事をしているし、研究室にこもっているか、本を読んでいるかしている。ああ、たまに裏庭で体操みたいなことをやってるな。

　そうだ、握手の件については僕が間違っていた。彼は握手しなかったんじゃなくて、できなかったんだ。なぜなら彼の右手は義手だから。彼がほとんど右手を使わないのをみて、ようやく気がついた。悪いことをした。気が付いていたら、握手なんて求めなかったのに。

　よく見ていると歩き方もぎこちないから、もしかしたら足も義足なのかもしれない。この前の戦争のせいだろうか。立ち入ったことを聞けるような間柄ではないので、尋ねたりはしないけれど。

　でも、そんなハンデキャップがありながら、彼は時々びっくりするぐらい素早く動くことができる。

　研究室にはハーゲンっていう奴がいて、あちこちの女の子に言い寄ったりしていて、この間も事務の女の子にしつこく絡んでいたんだ。女の子は明らかに嫌がっていたんだけど、なんとなく止めに入りにくいような雰囲気で。
　そうしたら、向こうから歩いてきたエドワード・エルリックが、すれ違いざまにハーゲンの奴にさりげなく、それはそれは見事な足払いをくらわせた。もちろんハーゲンはひっくり返ったんだけど、あまりもエルリックの動作が素早かったせいで、何が起こったのか飲み込めなかったらしく、しばらくそのまま呆然としていたよ。女の子はその間に逃げたけど、彼女も何が起こったか分からなかったんじゃないかな。

　僕もエドワード・エルリックが一瞬「してやったり」という顔をするのを見ていなかったら、彼の仕業だなんて信じられなかっただろう。

　読み返してみたら、エドワード・エルリックのことばっかりだ。
　おまえが変なことを書いたせいだよ。
　別に僕は彼のことなんか気にしていないから。