「兄さん、医学を勉強するんだってさ」
夢から覚めたアルフォンス・エルリックは、夢の記憶が消え去らないようにと、口に出してつぶやいた。
以前はこの夢を見るたび切なくて泣いたけれど、今はむしろ幸せな気持ちになれる。門の向こう側で兄は、自分によく似たあの人と一緒に元気に暮らしているのだ。
「アル、いい加減に起きなさいよ！ 今日はマスタング准将に会いにいくんでしょ」
階下でウィンリィが大声で呼んでいる。
「すぐ行く！」
怒鳴り返して上着を羽織ると、椅子の背にかけてあった深緑色のコートを取り上げた。
「医学だなんて、医者になる気かしら。あんな乱暴な奴が医者になったら、治療の度に患者の怪我が増えるわよ」
食卓でパンにパターを塗りながら、アルの夢の話にウィンリィがコメントした。
「機械鎧の研究のためだってさ。大事にしてるよ、ウィンリィの作った機械鎧。向こうでは動かせないから外しているけど……」
ウィンリィの動作が一瞬止まった。
「そう……」
「ウィンリィ？」
「……ちょっとミルク取ってくる」
顔を伏せたまま、ウィンリィは台所へと走る。
「機械鎧の研究ですって？ なによ、いつも私が機械の話をしても全然聞いてなかったくせに」
涙が頬を伝う。
「大事にしてるって……機械鎧……」
そうやってしばらく無言で佇んでいたウィンリィは、やがて頭を上げると涙をぬぐった。
その様子を戸口から覗っていたアルは、そ知らぬ顔で食卓へと戻った。
「それじゃシェスカさんにもよろしくね」
「わかった」
手を振って去っていくアルの深緑色のコートを見送ると、ウィンリィは作業着のポケットからスパナを取り出し、伸びをした。
「さってっと、私もがんばるぞ！」
そして、視線を空の彼方へとやって、つぶやく。
「エドに……負けてなんかいられないものね」
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