「アルフォンス、もう起きてもいいのか？」
病室を訪ねてきたエドワードが、ベッドの上に起き上がったアルフォンス・ハイデリヒに尋ねた。
「ええ、もともと傷口はほとんど塞がっていたし、あとは検査だけだったから。それで……」
アルフォンスが胸元を押さえるのを、エドワードはひどく不安そうに見つめた。
「病巣が……なくなっているんだって。医者が、奇跡だって」
「そっか……。よかったな」
エドワードの顔に安堵の笑顔が浮かぶ。
「あなたのおかげだね。本当になんていったらいいのか」
「礼はいらない。おまえが向こうに送り出してくれたからだよ」
「凄いんだ。錬金術って」
「もう使えないけどな」
エドワードが肩をすくめた。
「オレさ、医学を勉強しようと思ってる」
「医学を……？」
「そ。おまえが撃たれたとき、何もできない自分が歯がゆかった。医学を学べば、少しはできることもあるかと思ってさ」
「医者になるつもり？」
「それも悪くないけどな。これ、見てくれ」
エドワードは手にしていた細長い楽器ケースのようなものを持ち上げた。
蓋を開けると、中には鈍色に光る鋼の義手が納められていた。
「これは？」
「機械鎧っていうんだ。オレの幼馴染が作った。伝達系に錬金術が使われているから、こっちじゃ動かないけど。ああ……手荒く扱ったから傷だらけだ」
エドワードは義手の表面を大事そうになでた。
「こういうの、研究しようと思って。こっちでも必要としている人間はいるだろ。親父が作ったこの右手もさ、こいつを再現しようとしたものなんだ」
「へぇ、良く出来てるね。見せてもらってもいい」
「構わない。どうだ、わかるか？」
「なんとなくは。へぇ、こんなに小型化された駆動部で全体の動きを制御できるんだ」
興味深そうに機械鎧の細部を観察し始めたアルフォンスに向かって、エドワードはおずおずと切り出す。
「あー、あのさ、オレは理論は得意なんだけど、こーゆー細かい機械ってのは苦手でさ。ウィンリィにもっとよく話を聞いておけばよかったと思うんだけど……えーと……」
上目使いになったり、瞳を伏せたり、エドワードの態度は妙に落ち着かない。
エドワードがどんなときにそんな表情をするのか、アルフォンスは知っていた。
「素直じゃないよね、エドワードさんは」
アルフォンスの言葉にエドワードは少しばかりむっとした様子で顔をあげる。
そんなエドワードに笑いかけてアルフォンスは言った。
「僕にできることなら、手伝うよ」
エドワードの表情が、この上もなく嬉しそうな笑顔に変わった。
「よろしく頼むよ」
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