「なんでおまえが東方司令部の新年パーティに出席してるんだ？」
ロイ･マスタング大佐がむっつりとマーズ・ヒューズ中佐に尋ねた。
ここは東方司令部の大広間、いつもは会議室として使われている場所だが、今日は金銀のリボンや緑の小枝で飾り付けられ、中央には料理を盛ったテーブルがしつらえてあった。壁には「冬祭りの夜間巡回慰労会兼新年パーティおめでとう」の垂れ幕。階級関係なしの無礼講ということで、士官も兵士も一緒の立食パーティが始まっていた。
「家族旅行の途中で寄らせてもらった。様子が気になったんでな」
何の様子だというマスタングの問いには答えず
「本当はグレイシアとエリシアも連れてこようと思ったんだが、なにしろこのパーティはアレがあるからなぁ。悪い虫がつくといかんから、宿に置いてきた」
「当たり前だ、深夜まで続くパーティに子供を連れてくるな」
「でもお子様も出席してるよな。エドとアル、来てるんだろ」
ヒューズがなにやら意味ありげに笑う。
「来てる。ハボックが呼んだらしい」
不機嫌そうにマスタングが答えた。
オレンジジュースを片手にエドワード･エルリックがハボック少尉に話しかけた。
「なあ少尉、オレたち本当に出席してもよかったのかな？」
「も、もちろん全然オッケー、大歓迎だって」
「でも場違いっていうか、妙な雰囲気を感じるんだけど」
「そりゃ大将は最年少の国家錬金術師なんだから、珍しがられるのはいつものことだろ」
「うーん、そういうのは慣れてるけどさ、なんかいつもと違う……」
ふたりがそんな会話をしているところへ、下士官のひとりが近づいてきて料理の皿をハボックに突き出した。
「これを鋼の錬金術師殿に！」
そのままエドワードの方も見ずにそそくさと立ち去る。
「ほら、また。さっきからあんな感じで、みんなが差し入れしてくれんだけどさ、なぜかオレには直接話し掛けてこないし。変だろ？」
エドワードの隣のテーブルには、そうやって取り分けてもらった料理の皿が何枚も並んでいる。おかげで料理の盛られたテーブルで身体の大きい兵士たちにもみくちゃにされるような事態は免れたわけだが、なにか納得できない顔でエドワードは料理をつつきまわしていた。
ハボックはその「妙な雰囲気」の原因を知っていたが、それをエドワードに告げるわけにはいかなかった。
「ま、まあ、大将は特別ゲストみたいなもんだし、みんなシャイだしさ……」
慌ててとりなして心の中で付け加える。
――本当は後ろめたいからなんだけどな。許せ、大将。東方司令部の男どもの希望のためだ。
さらにもうひとり兵士が近づいてきた。新兵といってもいい年頃の青年で、ケーキを載せた皿を奉げ持っている。青年はハボックではなく、直接エドワードに皿を差し出した。
「ど、ど、ど、どうぞ」
緊張のあまり、手と皿が震えている。
「あ、どうも」
きょとんとした顔のエドワードが皿を受け取り礼をいうと、青年は耳まで真っ赤になった。
仲間たちのところへと戻った青年は、上官らしい男にばんばん背中を叩かれている。どうやら勇気を称えられているらしい。
その様子をみて、ハボックがつぶやく。
「若い奴は恐れ知らずだ……」
――大佐の宣言を知らんのか、それとも知っていてなおかつ突撃してきたのか。大佐が牽制しなかったら、ちょっかい出してくる奴はもっと多かったかもしれないな。
部屋の反対側にいるマスタングの様子を窺う。幸い今のやりとりは気づかれていないようだった。
背景素材は篝火幻燈からお借りしました。