司令部の一室でアルフォンスたちは机の上の二枚の地図を囲んでいた。一枚はセントラルの市街地の地図。もう一枚はセントラルの地下に埋もれた街の調査地図だが、こちらは大部分が空白のままだった。
メガネをかけた士官が地図を指して説明をする。
「オークションの会場に使われた遺跡の位置はここです。無届けだったので、まだ軍の調査が入っていません。だから内部がどうなっているのかは分からない。でも他の遺跡と同じく通路でつながっているのは確かでしょう。迷路みたいになっていますけどね」
「一番近い入口は？」
「こことここですね。こちらの入口はここまでは道がつながっているのが分かっています」
「遠いな」
地図を見ながらマスタングがつぶやく。
「准将、ここでこうしていても埒があかない。ボクたちに地下に下りる許可をください」
「しかし……」
そのとき電話を受けていたひとりの士官がいった。
「ホークアイ少佐、東四番街にある地割れ跡から変な煙が上がっているとの市民からの通報です。どうしますか？」
その言葉にアルフォンスとランファンが顔を見合わせる。
「狼煙ダ」
ランファンがいった。
＊
にわか作りの煙突から立ち昇る煙が天井の亀裂に吸い込まれていくのを見ながらエドワードがいた。
「こんなんで本当に助けが来るのか？」
「心配するナ。俺の部下は優秀ダ」
「……オレの弟だって優秀だぞ。まあいい、しばらくここで休ん様子をみるか」
リンが顔を上げた。
「音が……聞こえル」
「なんだ？ もう助けがきたか？」
「いや、足音というよりも何かを引きずるようナ……」
「蛇か？ でもあいつは明るいところは来ないんだろ」
「でも狼煙のために、香をつかったからナ。それに引き寄せられたかモ」
「整理するぞ。あの蛇は香に引き寄せられる。ここには香がある。あの蛇は光を浴びると凶暴化する。ここには光がある。でもって凶暴化した蛇にはオレたち二人がかりでも適わない。ということはつまり――」
「ここから逃げよウ」
広間への入口のひとつから、不吉な音が迫ってきた。
背景素材は篝火幻燈からお借りしました。