目を開けると崩れかけた岩の天井が見えた。
――右手……動く、左手も……動くな。両足……よしよし五体満足。
頭を押さえながら起き上がったエドワードは、なぜ自分が瓦礫の中に倒れているのかを思い出した。
「そうだ、でかい蛇と……。おい、リン、無事か？ どこにいる？」
「ここダ。とりあえずは無事ダ」
瓦礫の下からリンが這い出してきた。
「ここはどこダ？」
「さっきの部屋の下にある通路みたいだな。あんな風に崩れるとは思わなかった」
エドワードたちが落ちてきた場所は落盤でふさがれている。錬金術で道を開こうと試みたが、瓦礫の多さと岩盤の厚さに阻まれた。
「だめか。別の道を探すっきゃないな。早く戻らないとアルにどやされる」
ふたりは通路を進んだ。石造りで人ふたり並んでが通れるほどの通路は、壁に塗られた塗料が発光しているせいなのか、灯りもないのに薄明るい。
「セントラルの地下にはこういう古い遺跡や通路がいくつも埋まってるんだ。一番下には四百年前の町がそっくり埋まってる。そこまで行けば地上に戻る手がないわけじゃないが……分かれ道か、どうする、出口を探すか、それとも蛇を追いかけるか？」
エドワードは一方の道を指し示す。巨大な何かかが這いずったような跡が残っている。「今は地上に戻るのが先決だナ」
「あいつは暗いほうへいくんだよな。んじゃ、とりあえずこっち行くか」
分かれ道に出る度に印をつけて道を辿っていく。
小部屋へとつながる道はいくつか見つけたが、地上への出口は見つからなかった。
何時間も通路をさまよった末に辿り付いたのは、奇妙な石像が立ち並ぶドーム状の広間だった。ふたりがやってきた通路のほかに三つの出入り口がある。はるか頭上にある天井の割れ目から光が差し込んでいた。
「くそ、届かねぇ」
錬金術で梯子を錬成してみたが、割れ目までは届きそうにない。
「もういイ。少し休もウ。腹減っタ……。錬金術師、食い物は出せないのカ？」
地面にへたり込んだリンがいった。
「やめとけ。錬成した食い物なんぞ命の保証はないぞ」
「でも、水は出したじゃないカ」
「あれは壁から染み出した水を精製しただけだ」
「こんなことなら、蛇のいるほうへいくんだっタ。あれなら食えル」
「あれは、下手に扱うと毒なんだろ？ んなもん、食えるのかよ」
「肉だけなら大丈夫ダ。肉を切り取って、火で炙って……」
急にリンがエドワードのほうを振り返った。
「錬金術師、火を焚けるカ？」
「ああ、准将の真似事をすりゃいいんだから簡単だが、どうするつもりだ？」
「狼煙をあげる。人は昇れなくても、煙ならばあそこまで昇れる」
リンは天井の割れ目を指差した。
背景素材は篝火幻燈からお借りしました。