崩れた壁の前で青い軍服の青年が両手を打ち合わせた。青白い錬成光が迸り、崩れた壁はトンネルに姿を変えていく。だがそのトンネルの突き当たりにも瓦礫の山は残り、入口は今にも崩れそうな様子を見せていた。
「ダメだ！ ボクひとりじゃこれが限界か！」
アルフォンスはたった今自分が錬成したばかりのトンネルの壁を苛立たしげに叩いた。
「ここからの進入は無理か。もういい。少し休みたまえ、エルリック少尉」
ロイ･マスタングがアルフォンスの後ろから声をかけた。
「まだ出来ます、ボクは――」
異議を唱えようとするアルフォンスをマスタングが片手で制した。
「三課の連中に別のルートを探させている。すぐに君の力が必要になる。だから、今は休め。これは命令だ」
エドワードが錬成した壁のおかげで、崩れかけたオークション会場にいた者たちは、ほとんどが無事だった。
だが、エドワードとリン・ヤオは壁の向こうの瓦礫の中に巨大な白蛇とともに閉じ込められることになった。徹夜の救出作業にもかかわらずふたりの行方は未だに知れない。
エドワードたちが消えてから、すでに十ニ時間以上が経過していた。
瓦礫の上に腰をおろし、イライラと髪をかきあげるアルフォンスの前に湯気の立つカップが差し出された。
顔をあげたアルフォンスの前に黒装束に着替えたランファンが立っていた。
「飲め、シンの茶ダ。落ち着くし疲れが取れル」
花の香りのする金褐色の茶は、口に含むとほのかに甘かった。
「案ずるナ。リン様がついていル。リン様は強くて分別があるからナ、大丈夫ダ」
自分自身にもいい聞かせるように静かにランファンがいう。
「うちの兄さんだって強いし、それなりに分別はあるんだけどね」
アルフォンスがいい返し、それから薄く笑った。
「そうだね。兄さんたちはひとりぼっちじゃないし、ボクたちだってそうだ」
カップの中身を飲み干し、アルフォンスは立ち上がる。
「お茶をありがとう。それじゃボクたちに何ができるか検討しようか」
背景素材は篝火幻燈からお借りしました。