緑の扉の部屋の前でカードを渡し合言葉を伝えたアルフォンスたちは、地下の集会場へと案内された。
石造りの柱が立ち並ぶその空間は、古さからいっておそらく無届けで発掘された地下遺跡のひとつに違いない。
集会場には四十人ほどの客がいて、競りの中心は美術品や装飾品だった。中のいくつかはアルフォンスが調書で見た覚えのある盗品だった。
オークションが内心恐れていたような人身売買ではなかったのでアルフォンスは安堵した。万が一、兄やリン・ヤオが「商品」として並んでいたりしたら、理性のはじけ飛んだ自分やランファンが何をしでかすか想像もつかない。
主催者側に動きはないから、兄とリンは無事なはずだ。目的の品を見つけることが出来ただろうか。オークションが終わるころには第一の憲兵隊が踏み込んでくる。
アルフォンスは時計を見た。あと十五分。
そのときドンッという鈍い音とともに部屋が揺れた。
「地震っ！」
客席にいた女が叫ぶ。
四年前の大地震以来、セントラル市民は地震に敏感だ。
浮き足立った客が立ち上がり出口へと向かう。
「皆様、落ち着いてください、扉を開けますから、落ち着いて避難を――」
オークショニアの男が叫んだとき、もう一度部屋が揺れた。
青白い錬成光が壁から溢れ出しぼっかりと穴が開いた。
そこから金髪の男がまろび出てきた。客席を見て驚いたよう立ちすくむ。
その顔を見て、アルフォンスは思わず叫んだ。
「兄さん！」
駆け寄ろうとするアルフォンスをエドワードが制した。
「来るな、アル、とっとと客を避難させろ！」
穴からもう一人の男が飛び出てくる。
リンだった。
「なんだ、おまえたちは！」
詰め寄るオークショニアを突き飛ばしてエドワードが叫ぶ。
「うるせー、さっさと逃げろ！ 来るぞ！」
巨大な蛇の頭が穴から覗く。
蛇はそのまま壁を崩しながら姿を現した。
その衝撃で部屋を支えていた石柱が音を立てて倒れる。
「やべっ！」
エドワードが両手を打ち合わせた。
錬成された壁が客席とエドワードとの間に出現し、天井を支えた。
＊
「間に合ったか」
自分たちを閉じ込めることになってしまったが、なんとか天井はもちそうだ。
エドワードは溜めていた息を吐き出した。
「と、安心しちゃいらんねぇ」
振り返ると、リンが片手に武器、片手に香の入った袋を掲げて大蛇に対峙している。
大蛇はゆらゆらと頭を振りながら、飛びかかる隙を狙っているようだった。
「エド、おまえもさっさと逃げロ……」
大蛇から視線を外さずに、リンがいった。
「うるせー！ オレは、今、おまえと組んでるんだ！ ひとりで格好つけんな！」
エドワードはそう答えて、両手を打ち合わせた。その足元から、練成された槍の柄がせり上がってくる。
槍を掴んだエドワードに一瞬だけ目をやったリンの唇の端がニヤリと持ちあがる。
「そうカ。ならば……いくゾ！」
「おう！」
ふたりは同時に大蛇へと挑みかかった。
背景素材は篝火幻燈からお借りしました。