「簡単すぎてかえって不気味だな」
エドワードがいった。
ロイ・マスタングの用意した衣装の効果は絶大で、注目は浴びても咎めるものはほとんどいなかった。指示された通りに政府高官の名前で警備員の尋問を切り抜け、声をかけてくる者は尊大な態度で無視し、あっさり従業員用の通路まで辿り付いてしまった。
「まあ今まで軍が手を出せなかったっていうから、油断してんのかもな。にしても、この花はなんの目印なんだろうな？」
「エド……マスタング准将がいった通り、世の中には知らなくてもいいこともあると思うが……。知りたいカ？」
「……今はやめとく。ロクなことじゃねーんなら、あいつをブン殴れる情況のときに聞くことにする」
「それがいイ」
通路の先の鉄の扉の前では銃を持った男がふたり見張りをしている。
「フーのじいさんのいっていたのは、あれか。さすがにここは見張りがいるな」
「どうすル？」
「とりあえず眠らせて――」
「よシ」
エドワードがみなまでいう前にリンが飛び出し当身を食らわせて見張りを倒した。
「で、こいつらはどうすル？」
「――って、早っ！ 縛ってそのへんに置いとこう。この扉は後から錬成したものらしいな。んじゃ、オークションが始まるまえにチャチャっとブツを確認しようぜ」
エドワードは錬金術で扉の鍵を開けると、中を覗き込んだ。
地下へと降りる階段があるようだ。
「暗いな。灯りを……」
「まテ。普通の光はまずイ」
リンは懐から何か取り出すと火をつけた。青白い光を放つ折りたたみ式の角灯だった。
「アレは光を嫌うんダ。普通の灯りをもっていると、飛び掛かってくることもあル」
「毒があるんだよな。凶暴なのか？ 大きさは？」
「これぐらいかナ」
リンが両手を広げて大きさを示す。
「アレの好む香をもってきたから、それで大人しくさせル」
階段を降りた先は古い石壁の地下室だった。
壁の様子からみると随分と昔からある場所のようだ。どうやら盗品の倉庫として使われているらしい。
部屋の隅からは何かが動いている気配がした。
「こいつか？ でかすぎないか？」
牛が二頭ぐらい飼えそうな巨大な檻だ。覆いが掛けられている。
リンが覆いをめくり、息を呑んだ。
「いったい……何をしタ？ 何を合成しタ？」
そのとき、ふたりの後ろから足音が近づいてきた。
「まずい、リン、早く隠れろ」
「そこで何をしてる？ 何者だ！」
誰何の声とともにライトがリンの姿を捉えた。
「馬鹿！ やめロ！ 灯りハ……」
強烈な光の輪の中で、巨大な白蛇が威嚇の音をたてながら、鎌首をもちあげた。
背景素材は篝火幻燈からお借りしました。