「桃まん！」
意気揚揚と司令部に帰ってきたエドワードは、小さな包みを掲げて叫んだ。マスタングをはじめとして、ハボックと打ち合わせをしていたアルフォンスたちなど部屋にいた者全員が振り向いた。
「なんだそれは」
「桃饅頭だよ。リンの知り合いのシンの土産物屋のじいさんからの差し入れ。オレの首を切り落としそうになった詫びだってよ」
「何があったのか知らないが、生命の危機の代償が食べ物とは安い男だな、鋼の」
「るせー」
上官に対してとは思えない一言で反応したあと、エドワードが続ける。
「それよりお宝の行方がわかったぜ。リン、話してくれ」
リン・ヤオがフーから聞き出した情報をマスタングたちにかいつまんで説明する。シン秘伝の精力剤の作り方について、フーの店に情報を求めてきたものがいること。不審に思ったフーが調査したところ、セントラルのとあるホテルに大量の生きた蛙が搬入されていることなどだ。どうやら問題の蛇はホテルの地下で飼育されているらしい。
「なるほど、これで繋がったな」
リンとエドの報告を聞いてロイ・マスタングがいった。
そのホテルで毎月開かれているチャリティ・パーティの裏では盗品オークションが開かれているという噂は以前からあって、内密に捜査が続けられていたのだという。そして次の開催日に憲兵隊が一斉摘発に乗り出し、アルフォンスとランファンもそれに協力することになったという。
「なんだよ、オレたちがわざわざ調べなくても、すっかりお膳立てが出来てんじゃねぇか」
「まあ、そういうな。盗品オークションの線から手がかりがつかめないかと思って手を回していたのだ。まさにそこに目的の品があるというのなら、君たち自身で探ってみるかね？ しかし、男女のカップルなら目立たないだろうが、君たちふたりをパーティに送り込むというのは……」
マスタングはふたりを眺めて考えこむ。
「いっそのこと鋼のが女装するというのはどうだ？ 充分いけると思うが」
「冗談じゃねぇ！ だったらコイツにやらせろ！」
「俺は構わんヨ。こんな感じカ」
しなを作って見せたリンにエドワードとマスタングからブーイングがとんだ。
「気色悪！ 却下だ、却下！」
「……他の方法を考えよう。ああ、そうだ」
マスタングがなにやら含み笑いをした。
「いいことを思いついた。君たちに似合う役を用意しよう」
桃饅頭にかぶりつきながら、エドワードがいう。
「要するに盗んだ奴はプロだが、そいつを売り渡されたほうは素人も同然ってことか。あっさり片付きそうだな。片付いたら、お望みどおりアメストリス観光ができるぜ、リン」
「そう簡単にいくかナ？」
「いかせるんだよ。って、それオレの分の桃まんじゃねーか」
「まあまあ、小さなことにコダワルナ」
「皇子のくせに人の食い物に手を出すなっての！」
それまで黙っていたアルフォンスがすっと自分の分をエドワードに差し出した。
「子供みたいだよ、兄さん。ボクの分あげるから」
「ああ、サンキュ」
「ではボクたちは憲兵隊のところに顔を出してきますから。ランファン、行こう」
そういって、これもずっと無言だったランファンを促し、アルフォンスは立ち上がった。
背景素材は篝火幻燈からお借りしました。