「姉さん、そんな格好で外でちゃダメ。頼むから上着を着て！」
「なんで？ 暑いんだけど」
「僕の心の平安のためっ！ 早くこれ着るっ！」
「兄さんは今は女の子なんだから、前みたいに、やたらめったら脱いじゃダメ。素肌にシャツ一枚で出歩くのも禁止」
「うっせーな」
「それから軍の施設にひとりで行っちゃダメ。あそこは狼の巣みたいなもんだからね。路地裏もひとりで歩かない。この間みたいに絡んでくる奴らがいるかもしれないから」
「あれぐらいオレひとりで充分だ」
「あれぐらいならね。でももっと強い奴で出てきたらどうする気？ 前ほど筋力もないし、もう機械鎧は無いんだよ。現に僕には勝てないじゃないか。両手取られたら錬金術も使えないよ」
「あーっ、もうっ！ おまえ口うるさいっ！ なんでいちいちオレの行動に指図すんだよ」
「僕は……心配なだけだよ。兄……姉さんがあまりにも無自覚で無防備だから」
「心配すんな。ナリはこうでも、中身はガキじゃないんだ」
「……子供だよ、兄さんは。ぜんぜん分かってない。――自分のことも。僕のことも」
「何が分かってないんだよ？ いいから、もうオレのやることにあんまり構うな」
「……」
「アル？」
「……。ああ、そうだよね。何が起きたって兄さんの人生なんだから、僕が干渉するようなことじゃないよね。勝手にすればいい。僕はもう知らない」
「おい、どこ行くんだよ」
「あなたには、関係ない」
「戻れよ」
「……」
「アルっ！ 戻れってばっ！」
「来ないでよ！ ……今来られたら、酷いことしそうだ……」
「……ごめん、アル。オレが悪かった。これからはおまえの言うこと、ちゃんと聞く。なんでも聞く。だから。こっち向け」
「……わかった。わかったから、しがみつかないで……」
「本当に……あなたには敵わない。……ねぇ、なんでも僕の言うこと聞くっていったよね？」
「うん」
「なら、キスさせて」
「なんでわざわざ、ことわるんだ？ いつもは……」
「今日のはちょっと……特別だから」
「え？」
「――それから、さっきみたいなことは、僕以外には言っちゃダメ」
「やっぱ、おまえ、口うる……」
2005/04/25
……捏造未来。日に日にきれいになっていく姉さんに悪い虫がつきやしないかと心配でたまらないアルフォンス君。ロックベル家方面から釘をさされて、おあずけくらっている状態なので、いっぱいいっぱいだったりするわけです。
背景素材はSilverry moon lightからお借りしました。