姉さんと読書

「姉さん、本読むなら明りつけないと、目悪くなるよ」
「ああ……」
「あれ？　珍しいね、学術書じゃないんだ。今日は小説？　何読んでるの？」
「何でもいいだろ。あ、あっちいけよ」
「そういわれると気になるんだよね、ちょっと見せて」
「あ、おい、こらっ！　アル！」
「ふぅん、『白百合たちの囁き』。女の子向けのロマンス小説？」
「いいから返せっ！」
「どれどれ。『だめですお姉さま、こんなところで……』『どうしたの、アンジェリカ？　そんなに恥らうものではなくってよ、貴女と私の仲じゃない』制服のスカートの下に入り込んだジュスティーヌのしなやかな指に腿の内側を撫であげられ、アンジェリカは思わず切ない喘ぎを洩らした。指はさらにその奥の……」
「わーーーーっ、わーーーーっ、わーーーーっ、読むなーーーっ！！　声に出して読むなーーーっ！！」
「……官能小説だね。女同士の。どうしたの、これ？」
「ウ、ウィンリィが貸してくれた。お嬢様言葉の勉強したいっつったら、これにはお嬢様がいっぱい出てくるからって……」
「そりゃまあ、お嬢様学校の寄宿舎が舞台だものね。でもお子様の読む本じゃないねぇ」
「誰がお子様だよ。ナリはこうでも、中身はガキじゃないって言ってんだろ」
「まあいいでしょ。面白い？」
「んー、まあまあ」
「……感じた？」
「！！」
「実践したくなっても、やっちゃダメだよ。たとえ女の子相手でも、僕は許さない」
「だ、だ、だ、だれがするかっ」
「兄さんは昔から本で読んだことは、すぐ試したがったじゃないか」
「しねーってばっ」

***

「ウィンリィはこういう本たくさん持っているんだよね。僕は昔、男同士のやつを読ませられた」
「昔って、いつ？」
「鎧だった頃」
「……どうだった？」
「んー、興味深かったというか、なんというか。鎧でよかったと思ったけどね」
「鎧で……よかった？」
「生身だったら絶対実践してたよ、兄さん相手に」
「は？」

***

「もしも、こういうのの男女物を読むことがあったら……」
「はいはい、おまえの言いたいことはわかった。試したりしないから安心しろ」
「いや、試してもいいんだけどね」
「え？　だって……」
「ちゃんと僕を呼ぶんだよ」
「……………………わかった」

2005/05/10

このシリーズだったら、いくらでも書けそう。
エド姉さんがお嬢様言葉を勉強してるのは、軍司令部に呼び出されていてお嬢様なお芝居をしなくちゃならないからです。
アルフォンスのいっている昔話は「若きアルフォンスのもんもん」だったり。昔はもう少し白かったのにね、アル。