カモフラージュ 1a

「人目を忍ぶ恋人たちが抱き合えるような静かな場所へ行こう」
 耳元にささやきかけるロイ・マスタングを睨みつけて、エドワードは小声で言い返した。
「こんなとこで恥ずかしいこというな、馬鹿っ!」

 言ってしまってから誰かに聞かれはしなかったかと、周りを見回す。セントラルの繁華街のはずれとはいえ、まだ道行く人は多い。だが、彼らに注意を払う人間はいないようだった。
「大丈夫、誰も聞いていない」
 ロイが微笑む。

「今日は帰る。アルが宿で待っているし、ウィンリィもいるし」
「そうか……」
 エドワードの言葉にロイはひどく残念そうに答える。
「家に寄らないというのなら、少し歩こう。君と連れ立って歩く機会はあまりないから」
 周囲に人通りが絶えたのを見計らって、ロイがエドワードの頭を抱き寄せる。
「なにしろ君は目立つからな」
「それはあんたも同じだろ、大佐」
 ロイ・マスタングには敵が多い。だから周囲にふたりの関係が知られないようにと用心深く行動していたのだけれど……。
 でも、こうしてロイと街を歩くのは楽しい。恋人同士としてでなくてもいいから、もっと一緒にいられたら、とエドワードは思った。

 そんなエドワードの想いを見透かすように、ロイが言う。
「こんな風にもっと君と逢えたらいいのだけれどね」
「あんたが用もないのに『男』を連れて歩いていたら周りが変に思うだろ。日頃の行いを反省しろ」
「いっそ君が私の部下だったら話は簡単なんだが。……手を回してみるか」
「や・め・ろ」
「冗談だ」
 エドワードの髪をくしゃりと撫でて、ロイが笑う。

「大佐、どこにいくんだ?」
「人目を忍ぶ恋人たちが行くような場所さ」
二人は街外れの公園へと向かう。

 だが、あいにくとそこには先客がいた。

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背景素材は月楼迷宮からお借りしました。