「エドワード」
「何？」
「エド」
「だからなんだって？」
「エディ――どれがいい？」
そう問われて、金髪の子供は、呼び名を選べといわれていることに気がついた。
呼びかけている男は、なんだかやけに嬉しそうだ。
「名前呼ぶのが、そんなに楽しい？」
「楽しいね」
――呼びかける相手の君がすぐ手の届くところにいるからね。
「鋼の……でいいよ。あんたがいつも呼ぶみたいに」
「銘は呼びたくないな。私がね」
――その呼び名は私が君に背負わせてしまったものを思い出させるから。
「そう？ じゃあ名前で呼べば」
そっけなく子供が答える。
――本当は、あんたが「鋼の」って呼ぶ声、好きなんだけどな。
相手に聞こえないように小さな声でつぶやく。
「あとエディは却下」
「なぜ？」
「だれもそうは呼ばないから」
「だったら二人だけの呼び名だ」
その提案を思案するように、金色の瞳が天井を見つめる。
「やっぱりいい……。あんたうっかり口すべらしそうだし」
「そうかな」
「そうだよ、あんたは自分で思っているほどポーカーフェイスじゃないんだから」
「残念だね」
男は仕方がないといった風に肩をすくめる。
「では、エドワード、ならば私のことを名前で呼んでくれないか。せめて二人だけのときは」
「名前？」
「ロイと」
「……い、いいじゃないか、『大佐』で」
「昇進したらどうするんだ？」
「新しい階級で呼ぶ」
「軍を辞めたら？」
「……。あー、あんたが辞めるわけないじゃん。上を目指すんだろ」
「それはそうだがね」
困惑している子供を面白そうに横目で眺めやって、男はおおげさに溜息をつく。
「まったくもって残念だ。愛称で呼ばせてもらえないし、名前も呼んでもらえないとは」
その言葉に子供はふてくされたように横を向く。
そうして――。
「……ろい……」
「何かいったかい？」
「ロイ。――ロイ、ロイッ、ロイッ！ ほら呼んだぞ、これでいいだろ」
最後のほうは喧嘩腰の口調で睨めつけてくる子供の顔が赤いのは、怒りではなく羞恥のためだとわかっているから、男は笑ってそっと答える。
「嬉しいよ」
それから、金色の頭を抱き寄せて囁く。
「できたら、もう少し優しく呼んでくれないか、エドワード？」
2005/04/27
……ノートひっくり返したらSSが出てきたので放出。ありがちなネタでございますが。
うちのエドさんは、エディと呼ばれるのは好きじゃないみたいです。
背景素材はFlower&mauからお借りしました。