「大佐は事後処理に追われていて見送りには来られないの。あなたがいなくなるのを残念がっていたわ」
イーストシティの駅でリザ・ホークアイ中尉がアルフォンス・エルリックに向かって言った。
「僕に報告書を書かせるつもりだったんでしょうが、そうはいきません」
アルフォンスが澄ました顔で言う。
軍部と「協会」の思惑が一致したことにより、第五研究所の爆発は事故として処理されることになった。
第五研究所の地下で吸血鬼にまつわるなんらかの実験が行われていたのは確かだが、研究員も「見学」に来ていた将校も全員死亡し、資料も施設も破壊された今となっては、何が行われていたのかを知るのは難しいだろう。黒幕がほかにいるのかさえも容易は分かるまい。
もっとも、今のアルフォンスは、それを追及するつもりはなかった。
「ともあれ、一般市民には被害が出なくて良かった。これでしばらくの間は『やつら』もおとなしくしてるんじゃないかと思いますよ」
「だといいわね。あなたはこれからどうするの？」
「もちろん吸血鬼を追います。僕はハンターですからね」
アルフォンスが答える。
「なんだか楽しそうね。まるで――」
デートに出かける前のハボック少尉のようだというのが、リザの正直な感想だったが、それではあまりに執行官に対して失礼なのではないかと思い直して、もう少し一般的な言い回しを採用することにした。
「恋人に会いに行くみたい」
「恋人ね……恋愛は狩りの一種だといいますから、逆もまた真なのかもしれません」
そうハンターは答えた。
「それでは、道中お気をつけて」
敬礼するリザに、アルフォンス・エルリックが笑顔を返した。
それは、ついこの間までのどこか醒めたような笑顔ではなく、すべてを忘れていたときの無垢の笑顔でもない、まっすぐで鮮やかな笑顔だった。
― 了 ―
初出：『Crimson Blood』（2006年・夏コミ／関西ＳＣＣ発行）
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背景素材はSilverry moon lightからお借りしました