Second Contact

「こっちだ、アル！」

　鋭い声で呼ばれて、アルフォンス・ハイデリヒは振り返った。
　店の通用口のところでエドワード・エルリックがこちらを見ていた。

　アルフォンスの足元には4人の男が崩れ落ちている。中のひとりが、かすかにうめいた。
　さっきまで、エドワード・エルリックに絡んでいた酔っ払いたちだ。店の中で殴りあうハメになってしまったが、エルリックがほとんど一撃で男たちを沈めてしまったので、周囲の被害はそれほどでもなかった。
　これからどうしたものかとぼんやりと思いながら、アルフォンスは倒れていた椅子を元に戻した。
「何している。早く来い」
　その場から動こうとしないアルフォンスに業を煮やしてか、エルリックが近づいてきてアルフォンスの腕をとった。
「警察でも呼ばれたら面倒なことになるからな」
　それもそうだと思い、引っ張られるように店を出た。

　そのままふたりで裏道を足早に歩く。しばらく歩いて、エルリックが立ち止まった。
「ここまで来れば大丈夫か」
　そしてアルフォンスの顔を下から覗きこんで言った。
「悪かったな、巻き込んで。怪我はないか？」
「あ、僕は平気です」
　答えながら、こんな風にエルリックとまともに目を合わせるのは初めてだなと思った。いままで、彼はアルフォンスの目を見て話そうとはしなかったから。

――こういう瞳の色をしているんだ。金色だ。

「加勢してくれて助かったよ。左手だけじゃ、3人の相手はさすがにキツい」
　手袋をはめた左手を握ったり開いたりしながら、エドワード・エルリックは言った。
「久々なんで、加減を忘れた」
　黙ってそれを見ていたアルフォンスだが、急にあることを思い出して慌てた。
「ああ、食事代、払ってない」
　店で乱闘した上に無銭飲食では、まるっきり犯罪者だ。
　だが、蒼ざめるアルフォンスに向かって、エドワード・エルリックはにやりと笑って言った。
「出てくるときに店の人間に金を渡してきたから、大丈夫だろ」
　そういえば、通用口の側に店の主人らしい男が立っていた。
「もし何かあっても、オレが責任を取るから、あんたは心配しなくていい」
　エルリックは見かけによらず、こういうトラブルには慣れているらしかった。

　アルフォンスはもうひとつ別のことも思い出した。
　「さっき、店で僕のことを『アル』って呼んだでしょう。突然なんでびっくりしたけど――」
　言いかけたアルフォンスの言葉に、金色の目が見開かれて、すぐに伏せられた。
「悪かったよ。そんなに親しくもないのに、名前で呼んだりして。――間違えたんだ」
「えっ？」
「『アル』は――弟の名前だ。あんたは弟に似てるから……つい口から出た。これからは気をつける」
　急によそよそしくなった雰囲気をとりつくろうと、アルフォンスは話の接ぎ穂を探す。
「ああ、弟さんがいるんですね。僕と同じ名前だなんて奇遇だな。どういう人なんですか？」
「そうだな……。最後に会ったときには、オレよりデカかった」
　やはり自分よりも背が高いアルフォンスを見上げながらいう。
「そうですか」
　アルフォンスは、「最後に会ったときには」という言葉にひっかかりを覚えて、それ以上会話を続けることができなかった。

　表通りに出ると、エルリックが言った。
「じゃあ、オレはここで」
「ああ、待って、エルリックさん」
　そのまま背を向けようとするのを、アルフォンスが呼び止めた。
「さっきの騒ぎで食事をとり損ねたんで、別の店に行こうと思うんですけど、ひとりじゃ味気ないから、よかったら一緒に――」
　エドワード・エルリックの意外そうな表情が、はにかんだような笑顔に変わった。

「わかった。付き合うよ」

Ende

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「アルフォンス・ハイデリヒの手紙」を書いて「チョコレートと牧羊犬」を書いて、やっぱりこの間のエピソードを詳しく書かなくちゃダメだと思って書きました。ハイデリヒ君がエドを食事に誘うところまで辿り着けてよかったです。
エドさんってば、ハイデリヒが弟に似ていることを意外と早く告白してしまいましたが、いいのかな。まあ、いいか。
冒頭のエドの台詞はゲーム『赤きエリクシルの悪魔』をやった人ならお馴染みですよね。
(2005/02/19)