※劇場版捏造エンディング後。医学を勉強しているエドと精密機械を勉強しているハイデリヒ（健康体）は某所でまったり同棲中。
「なんで起してくれないんだ、アルフォンス」
バタバタと身支度をしながらエドワードさんが叫ぶ。
「起こそうとしました。４回も」
僕は答える。
「そういうときは、起きるまで声をかけるもんだ」
――この前そうしたら、朝食のあいだずっと不機嫌で、出かけるまで一言もしゃべらなかったのは、どなたでしたか、エドワードさん。
「今日は口頭試問があるんだよ。ああ、あの書類はどこ置いたっけ？」
「食事は？」
「そんな暇ねぇよ」
「でもせめて一口ぐらいは食べてください」
僕は小さく切ったサンドイッチを差し出す。
「お、サンキュ」
彼はサンドイッチにかぶりつく。こんなときは、英語が出るらしい。
「試問があるなら、ネクタイぐらいしていかないと」
「わかってる！」
ネクタイを握って鏡へと向かうエドワードさんの口にさらにもう一切れサンドイッチを押し込む。なんだか野良猫にエサをやっているような気分だ。
むせそうになっていたから、すかさず果汁の入ったコップを手渡す。本当は牛乳のほうが栄養があると思うんだけど。
「ああ、畜生っ！」
鏡の前でエドワードさんがが毒づいた。どうやら、タイがうまく結べなかったようだ。
「手伝いましょうか？」
「いや、いい。もう時間がないから、向こうに着いたら誰かに手伝ってもらうわ」
結ぶのを諦めたらしく、タイをポケットにつっこんで、エドワードさんが答える。
――他の誰かに手伝ってもらう？ そういうのは気に入らないな。
「僕がやります」
有無をいわせずポケットからタイを引き抜いて、彼のシャツの首に巻いてやる。
「試験なんでしょう。こういうときこそ身支度は念入りにして、落ち着かなきゃ」
「落ち着け……ねぇ」
エドワードさんがつぶやいた。
そうして――。
タイを結んでいた僕の手は止まってしまった。
彼の顔がいきなり近づいてきたからだ。
――ええと、ちょっと待って、エドワードさんっ！ 今は悠長にキスなんかしてる場合じゃなくて、身支度をしなくちゃいけないでしょうが。
「落ち着くおまじないなら、こっちの方が効くよな」
悪戯っぽい顔でそういうと、エドワードさんは結びかけのタイをするりと解いて左手でひらひらさせながら出ていった。
僕はといえば、ちょっとばかり混乱したまま戸口に残された。
頭の中では、なんであれで落ち着くんだとか、結局ネクタイはどうするんだとか、あなたはいいかもしれないけれど僕は全然落ち着きませんとか、朝からああいうキスは反則だとか、そういった考えがぐるぐるとしていた。
(2005/08/30)
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なんかいつもエドがしかけているのでエドリヒ風味ですが、こんなんでもハイエドですから。
状況的には17歳アルと18歳エドでも成立する話ですが、アルエドだったら兄さんは間違いなく遅刻します。