Reborn

　黒衣の女の右手の爪が鞭のように伸びて、「半成り」の首と胴体を切り離した。頭部を失った身体は地面に倒れ、見る間に切り口が黒ずみ風化が始まる。
　足元にころがってきた半ば崩れかけた首を踏み潰して、黒髪の少年がいった。
「一丁あがりっと。まーたく、おまえら『半成り』が勝手ばっかりするから、ボクたち純血種が苦労するんだよね」
　少年は道端に止まった馬車の中の乗客の様子を確認する。座席に倒れているのは血まみれの子供とその母親らしい女だ。少年は子供には目もくれず、女の顔を覗き込んだ。女は既にこときれていて、首筋にはうじゃけた赤黒い穴が開いていた。
「あーあ、がっついちゃって。せっかくの美人なんだから、もうちっときれいに食えばいいのに、これだから『半成り』は……」
　そのとき傍らの子供が小さくうめいた。
「なんだ、生きてんのか」
　十歳ぐらいの金髪の子供だ。右肩から胸にかけて切り裂かれ、半身が血に染まっている。
「こんなに流れちゃ、もうたいして血も残ってないだろうしなぁ」
　放っておくかと、つぶやいたそのとき、子供がうっすらと目を開けた。褐色というよりは金色に近い目の色だ。
「へぇ」
　少年は興味を引かれた様子で、子供のまぶたを指で押し広げた。
「こいつ、『金目』じゃん。しかも変化が始まってるし」
「エンヴィー、行くわよ！　さっさと済ませちゃいなさい」
　馬車の外から黒衣の女が声をかける。
「いま珍しいもん見つけたからさー、ちょっとまっててよ」
　エンヴィーと呼ばれた少年は、子供を肩に担ぎ上げると馬車から飛び降りた。
「ちょっとエンヴィー、なによ、それ」
「『金目』の子供だよ。それも『変化』してるやつ。どんなになるか見てみたいから、連れて帰っていい？」
「飼うんなら、あんたが面倒みなさいよ」
「わかったよ」


　それが「金目」の子供、エドワードの吸血鬼としての生の始まりだった。

2006/07/05
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本編のアルフォンス視点の回想シーンとリンクしています。
このときアルフォンスは馬車の外に投げ出されて無事です。
アルは、事件を聞いて駆けつけた「協会」のカーティス夫妻に引き取られ、吸血鬼ハンターとしての道を歩むことになります。