襟元にかけた黒絹のタイをさっきからずっと弄りまわしている兄に、アルフォンスが声をかける。
「兄さん、まだ結べないの?」
「るせー」
「だからボクがやってあげるっていうのに」
「いらん。おまえ、余計なことするし」
「余計なことって?」
「……触ったり……キ、キスしたり……」
「ひどいなぁ、せっかくのボクの愛情表現を……」
「黙れ。あ、クソッ、解けちまったじゃないか」
「あーあ、もう時間がないね。ウィンリィと約束の時間を10分もオーバーしている。いや、まだ10分経ってないか、9分と40秒だ。10分オーバーまであと19、18、17、16……」
「だーーーーーーっ! カウントダウンなんかするな! 気が散る!」
「そろそろ観念して、ボクに任せなよ」
「いやだ」
「今ならキスひとつで手を打つよ」
「おい、代価をとる気かよ」
「だって愛情表現がイヤだっていうから、だったら等価交換」
「ことわる」
そのときドアを激しくノックする音がした。
『エド、アル、車を待たせてんのよ、早くしなさいよ』
「ウィンリィだ」
『ねえ、何してんのよっ?』
「あー、おまえちょっと行って説明してこい」
「いやだよ、ボクが怒られるもの」
「うーー……」
二人が返答を渋った10秒後。
『やいっ、いい加減に出て来いっ!』
ぐわんっとドアに何かがぶつかる音がして、しばらくその反響音が続いた。
「……今の……多分スパナだ。ドレスアップしても持ち歩いているのかな」
アルフォンスがドアのほうを見ながら言う。
エドワードが呟いた。
「……結べ、アル」
「え? 何か言った、兄さん?」
「……ネクタイ……結ンデクダサイ……。オレはまだ死にたくない」
「オッケー」
アルフォンスは苦笑しながら兄のタイを手に取った。
2006/04/16
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5月のトップ絵用SSS。書いていて楽しかったです。
スーツ板に投稿しようかどうか迷ったのですが、以前読んだ他の方の二次創作にインスパイアされて出てきたネタなので(アキトさん、済みません)、投稿は見合わせてこちらにこっそり格納。